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戸惑いと恋情

神業後のタナレハ。レハトががんがん押しています。

拍手[3回]



 護衛を伴い、中庭を散策する。いつもの道筋、見慣れた景色。この欺瞞と嘲笑に満ちた王城で数少ない心安らげる場所であったが、今はその効力を発揮してはくれない。

「…………」

 本日何度目のため息だろうか。
 これ程までに頭を悩ませるのは、周りの者たちの刺すような視線も原因ではある。今も遠慮も慎みもない奴らは好奇と侮蔑の目を自分に向けている。
 だが、それよりも心を占めるものがあった。抱き慣れた憂鬱や憤りであれば対処のしようもあるが、それらと正反対とも言える感情。不慣れな己の感情にタナッセはただただ戸惑うばかりだった。

「あ、タナッセ!」

 よく通る無邪気な声にびくりとする。今一番会いたくない人物の接近に体が自然と身構える。
 振り返るとレハトは喜色満面で走り寄ってきた。

「……お前か」

 悩みの原因である人物はタナッセの苦悩に気づく気配もなく、にこにこと笑顔を向けている。

「タナッセも散歩? 僕も丁度訓練が終わったところなんだ。よかったら一緒に行ってもいい?」
「断る」

 間髪いれずに返した拒絶にもレハトは怯まない。どうしてと理由を問う顔は純粋な子どもそのものだった。
 彼女には遠回しに告げても恐らく理解しないだろう。きっぱりと拒否して、二度と自分に近づかないようにしなければ。

「……お前は、そうやって私に近づく事の意味をわかっているのか?」
「……意味?」

 不思議そうに目を瞬かせる仕草は時期王候補とは思えぬほど幼く見えた。たとえ王になれずとも、彼女はそれなりの地位に就くことを求められるだろう。平民出身とはいえ、この調子でこれから先大丈夫かと心配になる。

「私とお前が一緒にいる事で予測される事だ」
「タナッセと一緒にいられて僕が嬉しいってこと?」
「……っ! そういうことではない」

 釘を刺すつもりが予想もしない言葉を返され、調子が狂う。
 思えばレハトが来てから自分はその存在にその言動に常に心乱されてばかりだ。
 初めにレハトの存在を知らされたとき、言いようのない屈辱と怒りが胸に湧いたことをよく覚えている。
 彼女が城に来てからは腹の立つことばかりで、精神がひどく不安定だった。
 貴族ではないのに印を額に戴き、それを当然に思っているかのような振る舞い。無学な上、舞踏会も失敗続きであったのに、決して諦めずに王を狙う貪欲さ。あげく、人の親切を暴力で返す無礼な人間性。
 全てが全て自分の神経を逆なでした。こんな人間は寵愛者に相応しくはないと心の底から思った。
 だから、奪ってやろうと決意したのだ。
 その身に過ぎた印を、神に愛された証を。在るべき処へと戻してやろうと。
 今思えば恐ろしく浅ましい考えだ。結局は儀式は成功せず、レハトの命を脅かし、こうして自分の立場も危うくしている。
 奇妙な事にレハトは危険な目に合わせた自分を許した上に好意を告げてきた。
 彼女の真意がわからない。本当に自分を好いているのか、それともただ自分を混乱させて楽しみたいのか。
 どちらにせよ、彼女の好意には応えられない。当然だ。裁かれはせずとも、自分は罪人の身なのだから。

「そういう、ことではなく……お前は、気にはならんのか」
「? タナッセの事はいつも気になってるけど……」
「……。周りの、者の目だ。私に対しての評判がその耳に届いていないことはあるまい。『王配狙いで世間知らずの寵愛者をその毒牙にかけようとしている』……奴らにしては、珍しく正確な噂話だな」

 自嘲めいた笑いを溢すと、レハトの瞳が揺らいだ。彼女のそんな姿を見るのは初めてで内心戸惑ったが、これはいい機会だ。
 私ごときに誑かされたと噂をされたくなければ近づくなと諭そうと口を開いた。

「……レハ」
「――おや、レハト様、そんなところで何をしてらっしゃるのですか?」

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた男に言葉は遮られた。この男は何度か城で見かけたことがある。確か、ニデ子爵といったか。権力と私財を蓄えることしか頭にない、無能な役人の一人だ。

「これはニデ子爵。天気がいいので散策をしていたのですよ」

 口調を正したレハトは先ほどとは違い、若干大人びて見えた。先ほどの心配がただの杞憂であることにほっとするのと同時に、なぜだか寂しく感じられた。

「散策ですか、良いですね。……ですが、気をつけてくださいませ。あなた様を狙う不届き者はどこにいるかわかったものではありませんぞ」

 タナッセを一瞥して男は嗤う。彼の指摘は尤もであるため、何も言えずに視線を逸らした。

「ご心配頂き、ありがとうございます。ですが、この王城ではそれも無用の心配でしょう。私を狙っていました不審な男も、もう王城にやすやすと侵入することはできませんから」
「――寵愛者様、何も敵は外からくるわけではありませんよ。この王城内部にも貴女様の印を妬み、危害を加えてくる輩はおりましょう。……もしかしたら、貴女様のすぐ近くにいるかもしれません」
「……ほう。例えば、あなたとか?」

 男は面食らったように目を見開く。レハトは薄く笑うと、冗談ですよと付け加えた。

「は、はは……。寵愛者様は本当にご冗談がお上手で! ですがそのくらいの警戒心を持たれた方がよろしいでしょうね。何せ、貴女様を狙った輩は捕まっておりませんから」

 どうあっても自分を攻撃し、レハトに取り入ろうとする腹積もりらしい。

「貴女様を襲った輩は確かに外部の者でありましょうが、それを手引きした輩がおります。付き合う相手はよく考えた方がよろしいですよ。私などは顔が広いですから、何かとお役に立てますかと思います」

 明らかな媚売りにレハトは上辺の笑みを返す。男はそれを肯定と受け取ったのか、えらく上機嫌で去って行った。
 男を見送ったレハトはその姿が消えても尚、視線を戻すことはなかった。

「……ねえ、タナッセ」

 珍しく、沈んだ声だった。

「僕はタナッセが好きだよ。大好き」

 突然の告白に固まるタナッセに視線を向けることなく、レハトは言葉を続ける。

「朝から晩まで……ううん、夢の中でもずっとタナッセの事考えてる。タナッセの側にいたいし、たくさん話したいし、できたら触りたい」
「なっ……!」

 こんな場所で何を言っているのだ。顔が赤くなったのを感じ、自分の動揺に更に狼狽えた。
 周りの者のざわめきに今の状況を思い出し、レハトの手を掴んで中庭の奥深くへと足早に向かった。自分の言葉を遮られてもレハトは不満を漏らさずに、ただ黙ってタナッセについていく。
 大きな切り株の根元で一息つく。ここまでくれば、無粋な奴らの目から逃れられるだろう。距離をとってついてきたモルはタナッセの目くばせに誰もいないと頷いた。

「……お前、あんな人目の多いところであんなことを言いだすなど、何を考えている」

 非難めいたタナッセの言葉にレハトは申し訳なさそうに眉を寄せた。

「ごめんなさい。でも、どうしても今伝えたかったんだ」

 伏せた瞳が何かを捉え、ぱっとその顔が赤く染まる。不審に思いその視線を辿ると、レハトの手をしっかりと握った自分の手が映った。

「! こ、これは緊急のため、しかたなくだな!」

 慌てて手を放して言い訳をする。レハトは静かに頷いた。

「わかってる」

 悲しい響きを持った声に息が詰まった。

「……何故、突然告白などした? お前の気持ちは受け取れないと以前にも言っただろう」
「うん。……悪あがきしすぎたみたいだ。結局、タナッセに迷惑をかけてしまった」

 ギュッと拳を握りしめ、レハトは言葉を続ける。

「僕、周りがなんと言おうと僕がタナッセを好きならそれでいいって思ってた。……でも、僕のこの気持ちはあの人たちがタナッセを攻撃するいい材料にしかな らないんだね。僕だけの問題じゃない。僕がずっと付きまとっているせいでタナッセが謂われもない中傷を受けるのは……嫌だ」

 レハトが自分を見る。真剣な光を宿した瞳はうっすらと涙に濡れていた。

「……だからこれで最後にしようと思うんだ」

 握りしめた拳は小刻みに震えている。

「――タナッセ、僕は君が好きだ。ずっと一緒にいたいし、恋仲になりたいと思ってる。ただ、僕のこの気持ちは今の君の立場からしたら、脅迫めいたものでしかないのかもしれない」

 被害者と加害者。罪を許されるのが恋情故であるのなら、ここで応えなければ告発されるのかもしれない。
 レハトはそのことに後ろめたさを感じているようだったが、タナッセからすると今の苦しい立場から逃れられるのなら、死罪の方がよほどましだった。それを伝えてあるのに、彼女はそれでも怯えている。
 断罪を求めるためにわざと自分を振るという可能性を考えていないのだろうか。

「僕はここで振られたからってタナッセに何かするつもりはない。きちんと、諦める。これで、最後にする、から……。タナッセの正直な気持ちを聞かせて欲しい」

 レハトの為を思うのならば、ここで想いを断ち切るべきだろう。今は自分に焦がれているようだが、所詮は子供の思慕。大人になり様々な人間と関わるうちに本当に愛すべきものに出会うだろう。
 それに、レハトと一緒になれば、自分が受けるべき嘲笑や侮蔑を彼女にも背負わすことになる。下手をすれば、付け入りやすいと甘く見られ、不穏な輩に狙われる。
 わかっていた。自分はレハトから離れるべきだと。
 けれど。

「…………」

 目の前で自分の返事を震えながら待っている少女を愛しいと思った。離したくないと望んでしまった。それが彼女に危険や苦労をもたらすとしても、傍にいてほしいと。
 名を呼ぶと小さい体が大きく震えた。
 いつもは自信に満ちた顔が、今は不安で泣きそうになっている。

「レハト、私は――」

 あれから心を占めてやまないこの感情を告げたのならば、彼女はどんな顔をするのだろうか。


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かもかて、ダンマカの二次創作サイト。
恋愛友情憎悪殺害ごっちゃにしておいています。

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